迷子の月 〜exploration of Luna〜

第二話

 ルナが目を開けると、そこにはものすごくたくさんの本棚、そして本が目に入ってきた。と同時に、かび臭い匂いが鼻を刺激した。
「ようやくお目覚めか」
 再び状況が分からなかったルナの視界に入ってきたのは、これもまた魔理沙だった。
「あ、魔理沙さん。なんで私たちはこんなところに……? というか、ここもどこだか分からないんですが……」
「ここは、紅魔館。その中にある、大図書館よ」
「!!」
 答えたのは魔理沙ではなく、ルナの背後から聞こえた抑揚のない声だった。ルナは突然の声に動揺している。
「初めまして。私はこの図書館に棲む魔法使い、パチュリー・ノーレッジ」
「え……っと、私はルナチャイルド。森にいる妖精……です」
 挨拶だけ終わったらパチュリーは椅子に座り、本を読み始めた。
「……」
 まだ状況がよく分かっていないルナに、魔理沙が補足説明をする。
「あー、まずは何故ここにいるかだな」
 魔理沙は帽子を机の上に置き、椅子に腰掛ける。そこで咳払いをし、話し始める。
「私たちが冥界から出てきたところで、お前が気絶してたんだ。とりあえず、そのままあの大木のところまで行ってみたんだが、扉には鍵が閉まっててどうしようもなかった。で、私はここに用事があったんだが、お前を置いていくのも気が引けるからそのまま運んできた、って感じだぜ」
「はぁ……」
 なんとなく状況を理解したルナは、とりあえず次に魔理沙の箒に乗るときがあったら気絶しないよう注意しようと思っていた。
「それはそうと、なんでお前一人なんだ? いっつも三匹でいるんじゃないのか?」
「それは――」
「ちょっと、もう少し静かに話してくれない? 読書に集中できない」
 ルナが説明しようとしたところをパチュリーが遮る。
「あ、はい」
 指を鳴らす。と同時に、周りの音が消え去った。もともと物音がしない空間だったのだが、さらに静かに。
「さっきの続きですけど……」
 ルナは魔理沙には声が届くようにしていた。というよりは、パチュリーの聞こえる音が無くなったのだろう。
「いつもみたいに二人と一緒に出かけてたら、いつの間にか私だけ取り残されてたんですよ。いつの間にか」
「置いてかれた訳じゃないのか?」
「はい。気づいたらいつの間にか、ですね」
 だが、説明しているルナでさえおかしいことに気づく。なぜ自分はサニー、スターと別れたときの記憶がないのだろうか。いつもなら、三人一緒のはず。
「ふむ。これは……謎だな」
「ですよね。謎ですよね」
「こう言うときこそ……私の出番だな!」
 魔理沙は帽子をかぶり、箒を手に持つ。今にも飛び出すだろうという雰囲気が嫌でも感じ取れる。
「えーっと……どうするつもりです?」
「お前の仲間たちを探して直接聞く。謎を解くのにはもっとも簡単で確実だぜ」
 魔理沙らしい発言である。ルナはそんな魔理沙に少しだけ、尊敬のまなざしを向けていた。
「それじゃ、パチュリー。私とこの妖精はそろそろおいとまするぜ」
 魔理沙はパチュリーに向かって言葉を発していたが、パチュリーは無反応で、読書に集中している。
「あ、私の能力で聞こえてないですよ」
 そう言ってルナは指を鳴らした。と同時に、パチュリーの本をめくる音が耳に入ってきた。
「それじゃ、パチュリー。私とこの妖精はそろそろおいとまするぜ」
「わかったわ。またね」
 本から一瞬たりとも目を離さず、パチュリーは魔理沙に言い返す。だが、魔理沙は気にしていない様子で、図書館を出て行く。
「ほら、行くぞ」
「はい!」
 ルナは魔理沙を見失わないように、急いで追いかける。今のルナには、魔理沙という人しか頼れないのだから。

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