迷子の月 〜exploration of Luna〜

第一話

「それにしても、ここはどこかしら」
 ルナは呟く。けっこう飛んできた気がするが、景色は一向に変わった気がしない。同じところを延々と、ぐるぐる回っているかと錯覚してしまうほど。
 暗闇や夜なんて怖くない。
 そう思っていたルナだが、今回だけはちょっとだけ不安だった。ついでに、妙な寒気を感じる。夏なのに。
 それでも、立ち止まっていてはしょうがないので飛び続けるルナ。
 と、そこで目の前に人影が見えた。本当に影と間違えてしまうほど、漆黒に包まれているような人に。
(ん? あれはもしかして……)
 その人はルナを華麗にスルーして飛んでいった。ルナは慌てて、その人を追いかける。
「ちょっとーっ! 止まってくださーい!」
 できるだけ声を張り上げて、ルナは叫んだ。
 その声が聞こえたのだろう、通り過ぎて行った人はルナに向かって旋回。
「やはり、見間違えじゃなかったのか。こんなところで妖精を見るとは」
 黒い服装の魔女――霧雨魔理沙だった。
「魔理沙さん! ちょうどよかった。今、道に迷ってまして……」
「唐突だな。それに、妖精でも道に迷うのか?」
「え……っと、ここがどこだかわからないんですよ」
「ここは冥界だ。知らずに飛んでいたのか」
「め、冥界?」
 なるほど、とルナは納得した。冥界なら人気が無いのも、涼しいのも、暗いのも合点がいく。妖精とは言え、文々。新聞を見ているルナなら、それくらいの情報は知っている。もちろん、冥界との行き来がしやすくなったのも。
 分からないことと言えば、何故自分はここ、冥界にいるかということくらい。
「まあ、近所のよしみというのがあるしな。幻想郷にまで連れてくぜ」
「あ、ありがとうございますっ!」
「よし。じゃ、私の箒に跨ってくれ」
 魔理沙は逆回転し、箒の後部をルナに向ける。ルナは箒の空いている部分に跨る。
「それじゃ、出発だぜ! しっかり捕まってろよ」
 そう言うと、魔理沙は箒を加速させた。その空を飛んでいる姿は、月へ向かうロケットのようだ。加速度はどんどん増していく。
「ちょ、魔理沙さん! 速すぎですよ!?」
「平気だぜ。万一の事があっても、お前は妖精だから大丈夫だろ?」
 何事もないような顔で魔理沙は言う。だが、すでにルナは落ちないように箒の柄を強く強く握りしめることで頭がいっぱいだった。

-Powered by HTML DWARF-