危険な天狗 〜medicine of Aya〜

第八話

――刹那、文の体は宙を舞い、放り投げられる。
「ひゃっ!」
 文は今の状況を理解できないまま、家の近くにあった木に貼り付けにされた。手足が木と一緒に何かひものようなもので縛られていて、身動きが取れない。
「新聞記者が勝手に人の家に入るなんてな」
 そんな文の前に、魔理沙が現れた。相変わらずの白黒衣装である。
「ま、不法侵入者にはこれくらいの罰がちょうどいいだろう」
「やはりあなたですか。こんな罠を仕掛けたのは……」
 文はニッと笑っている魔理沙を見て、呆れた表情を見せた。
「さて、ここに来た理由でも教えてもらおうか」
 じわりじわりと文に近づく魔理沙。
「理由……ですか。ちょっとお届け物を預かったんですよ」
「届け物? 私にものを届ける奴がいるとはな。誰だ?」
「永遠亭の永琳さんです」
 正直に文は答える。もちろん、営業スマイルを絶やさずに。
「永琳だと? なんか胡散臭くなって来たぜ」
 怪訝顔になる魔理沙。永琳の存在自体が怪しさを放っているのに、文のスマイルがそれを強調しているかのようだ。
「で、その永琳が私に何を届けようとしていたんだ?」
「薬ですよ」
「薬? ますます怪しくなってきたな……」
「すでにいろんな方に届けてますし、結構好評でしたよ。ですから怪しくなんてありません」
 実際好評などではないのだが、不評があるかと言われたらそうでもない。それくらいの嘘はむしろ都合の良い物だ。
「ふぅん、そうか。で、その薬はどんな薬なんだ?」
 文が嘘をついているとは気がつかなかったのか、魔理沙は少し乗り気である。
「分かりませんねぇ。今まで見てきたのですが、全員違う症状が起こってましたので」
「へぇ。それじゃ、その薬を私にくれ。もちろん、私が飲むわけではないが」
 薬の効果を調べることは出来そうに無い気がした文。だが、魔理沙が興味を持ってくれたおかげで、この状況だけはどうにかなりそうである。
「なら、このひものような物をほどいて下さい」
「ああ、わかったぜ」
 魔理沙は文の後ろに回り込み、ひもを解いた。
 文は首や肩を回し、少し飛び跳ねる。体を慣らしているようだった。
「さて、では薬を……」
 文は薬を取り出そうとして――
「あれ……ない!?」
 さっきまではあったはずの薬が文の手元には無かった。文は自分の着ている服の全てのポケットを捜し回すが、それらしき物は何処にもない。
「どこかで落としたんじゃないのか? 高速で飛んでるから」
 魔理沙は笑って返すが、文は結構深刻である。折角のネタを手に入れるチャンスが失われてしまうのは困る。それに、相手は永琳だ。一度やると言ったのにもかかわらず、もしそれが果たせなければ何をされるか分からない。
「……魔理沙さん。この話はなかったことにしてくださいっ!」
「お、おい! どこ行くんだ〜?」
 文は魔理沙の言葉など聞かずに、すぐさま魔法の森を去っていった。

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