危険な天狗 〜medicine of Aya〜

第九話

「はっ……はっ……」
 息を荒くしながら、文は永遠亭の前で立ち尽くしていた。幻想郷最速といえども、かなりのスピードで魔法の森から飛んできたのだ。疲れていても当然である。
 そんな文は呼吸を整え、永遠亭の扉を開ける。力なくゆっくりと開いていく扉の先には、やはり永琳がいた。
「あら、なかなか早いお帰りね」
 永琳は、疲れ切っている文に向かって怪しげな笑みを浮かべている。まるで、何が起こったかを把握しているかのような表情にさえ見える。
「とりあえず、薬の作用報告です」

 文は永琳に今までの薬の作用について全て話した。もちろん、薬を無くしてしまったことは伏せて。
「ふぅん。大体薬の作用は分かったわ。で、確か薬は六つ渡したはずだけど……なぜ三つしか報告がないのかしら?」
「それはですね……多分、急ぎすぎて落としちゃったみたいです」
 言い訳をすることもなく、真面目に伝える文。
「あら、そうなの」
 永琳は驚いたようなことを言うが、表情は全然驚いていない。
「なら、仕方ないわね。じゃ、ついて来なさい」
「は、はぁ……。わかりました」
 何か嫌みでも言われるのかと思った文だが、そうでもないようだ。だが、文はこれか自分の身に何が起こるのかを知らなかった……。


 文と永琳は、永遠亭のとある一室にたどり着いた。畳が敷き詰められている、何もない空間は落ち着いている。しかし、所々に黒い――焦げたような跡が目に入る。
「さて、と」
 永琳はどこからか椅子を引っ張り出してきて、そこに座った。
「新聞のネタについて、だったわね」
「それはいいんですが……なぜこんな所に来たんですか?」
「一応よ、一応」
 そう言うと、永琳は服に手を伸ばして何かを取り出した。
「それは――薬ですか。今度はその薬の宣伝を?」
「いいえ。この薬は……口止め、みたいな物かしら」
「……は?」
 文は自分の背中に何か、冷たい物が走ったような気がした。
「私が貴方に与えたネタは『最初に渡した六つの薬』よ。それについて、説明でも宣伝でも、何をして貰っても構わないわ。ただし、私が怪しまれないようにすることが条件よ。お客さんからの信頼が減ってしまったらいけないのよ」
「それは分かりました。で、その口止めの薬は……」
「ああ、これわね……」
 永琳は途中で言葉を切った。刹那、文の口の中に薬を入れる。
「――っ!」
 文がそのことに気づいたときには、もう薬は文の喉を通っていた。
「これは、貴方が薬を落とした罰。それと同時に、あなたが今言った条件を破ったときには、この薬を強制的に飲ませる、ということよ」
「ケホッ、ケホッ――この薬は一体……」
 文はそう言いかけた瞬間、自分の身に起こったことを把握した……。
「これは、まさか……きゃぁぁぁぁ!!」
 永遠亭から、文の大きな叫び声が竹林一杯に広がっていた。

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