危険な天狗 〜medicine of Aya〜

第七話

「さて、次は……と」
 文の手元には、白カプセルが二つ。赤カプセルが一つ。要するに、あと人間二人、妖怪一人に薬を飲ませる必要がある。妖怪はともかく、人間は難しいだろうと考える文。ただでさえ人間は少なめだし、里の人間には手を出しにくい。
(人間……他には巫女と白黒魔法使い、メイドくらいしか思いつきませんね)
 博麗霊夢は所在不明、十六夜咲夜は手強いとなると、残りは霧雨魔理沙だけ。
(魔法の森に行きましょうか。ここからなら近いし、確かあそこには人形遣いもいたはず……)
 ほんの少し考えた末、文は魔法の森に目標を絞った。そうと決まれば、高速で向かうのみ。
 と思った矢先――
「っ!」
 文は、一瞬だけ目眩のようなものを感じた。視界を一瞬だけ奪われたような。
 が、それは本当に一瞬のこと。すぐに問題ないと判断した文は魔法の森に向かった。
「まずは、霧雨魔法店へ!」

 霧雨魔法店。知っている人は多分、少ないだろう。この店……というより寂れた家とでも言うべきところは霧雨魔理沙の家である。
「魔理沙さーん、いますかー?」
 外から呼びかける文。しかし、誰からの返事もない。それもそのはず、この家の中で魔理沙を見かけたことのある人はいないと言っても過言ではないくらい、魔理沙はここを留守にしている。
「ふむ。仕方がないですね」
 文は堂々と扉を開き、一歩、足を踏み入れた。辺りを見回し、中へと歩いていく。初めてこの家に入った文だが、その歩き方には、怖さが微塵も見えない。
 だが、家の中には人の気配を感じられない。やはり、魔理沙はいないようだった。代わりに、中にはキノコやら本やら、何かよく分からない物体が無造作に、ゴロゴロと転がっている。
「魔理沙さーん」
 試しにもう一度呼んでみるが、やはり返事はない。
「いませんね……」
 文は引き返そうとする。が、折角なのでこの家の中を写真に納めておくことにした。奥の方まで入ってきた人はなかなかいない。
 文自慢のカメラがシャッターを切る心地よい音が聞こえたところで、速やかに今来た道を引き返す。扉を開け、家の外へと足を踏み出した。

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