危険な天狗 〜medicine of Aya〜

第六話

 紅魔館を出てすぐ、門の前に文とパチュリーはいた。そして、紅魔館の門番、紅美鈴もすぐ近くにいる。
「本当に、どうしようもないわね……」
 門の前で椅子に座って寝ているだけの美鈴を見て、言葉を漏らしているパチュリー。これなら、門番より、立派な門の方がよっぽど役割を果たしている。
「で、貴方についてきたわけですけど……」
「そうね。じゃ、例の薬を頂戴」
 文はすぐさま薬を取り出し、パチュリーに手渡す。
「本当に、ついて行っただけで受けてって下さるのですね」
「まあね。分かってると思うけど、この門番に飲ませるためだから」
 気持ちよさそうに寝ている美鈴を見ながら、パチュリーは薬を確認する。そこにはしっかり『永遠亭』と書かれている。
「この薬、作用は何? まあ、知ってても言わないと思うけど」
「そもそも知りませんね。他二人に試したのは作用は違いましたよ」
 試すために渡された薬だから、作用は全て違うだろうと考える文。
「じゃ、早速飲ませるわよ」
 パチュリーは、美鈴の顔を持ち上げる。そして、大きく開いている口の中に薬を放り込んだ。そして、美鈴は寝ながらそれを飲み込む。
「……」
 薬の影響を受けていないのか、それともまだ回ってないのか、美鈴には何の変化も見られない。
「起こしてから飲ませた方が良かったかしら」
「じゃ、今起こしましょう」
「そうね」
 そう言って、パチュリーが美鈴に向かって手を振りかざした瞬間――
「はっ!」
 美鈴はカッと目を見開いた。そして、勢いよく立ち上がる。
「あ、パチュリー様。おはようございます!」
 美鈴は何事もなかったかのように、挨拶をする。
「もう昼過ぎよ、美鈴。寝てないで、仕事をしなさい。鴉天狗なんか、簡単に入ってきてるわ」
 そう答えるパチュリーだが、少しだけ焦りの色が見える。見た感じ、美鈴には薬の影響が無さそうなのである。
「……っ!」
 その瞬間、美鈴の体がほんの少しだけ震えた。注意深く美鈴を観察していた文は、そのことを見逃してはいなかった。
「門番さん、今何か身体に異常が起こりませんでしたか?」
 率直に質問する文。それに対して、美鈴も真剣に答える。
「はい。電流が走ったというか、鳥肌が立ったというか……そんな感じに」
「ふむ」
 これまた変わった作用だと思う文。具体的には分からないが、メモをする。その後、文はパチュリーに耳打ちする。
「この薬を飲ませれば、多分門番さんの症状は消えるはずです。もし症状が酷いようなら使って下さい」
 こっそりと薬を手渡す。パチュリーは小さく頷き、それを受け取った。
「それでは、用事があるので失礼しますね。後のことはパチュリーさんに任せますー」
 そう言って、文は紅魔館を後にした。それを見送るパチュリーと美鈴。
「……さて、と。じゃ、私は図書館に戻るからしっかり仕事しなさいよ。次、寝てるのを見たら咲夜を呼ぶからね」
「大丈夫です! 寝ていた分しっかり働きますよ」
 腕を振り回し始める美鈴と、それを少し呆れたような顔で見るパチュリー。二人は何にも気づくことなく、平凡な生活へと戻っていった。

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