危険な天狗 〜medicine of Aya〜

第五話

第五話

「お邪魔しますよ」
 文は大きなドアを開く。軋む音がするほど古いドア。その先には数え切れないほどの本が並んでいる。
 かび臭いことなども気にせず、文はその中を進んでいく。しばらく歩いていくと、一人の少女が椅子に座って読書をしていた。
「あんたはブン屋……?」
 紅魔館にある大図書館の主、パチュリー・ノーレッジだ。本から目を離すことなく、文に言葉を投げかける。
「ええ、その通りです」
 文はにっこりと微笑みかける。……が、パチュリーは見向きもしない。
「うちの門番はどうしたの?」
「ああ、門番さんは門の前で寝てました。必要なら証拠写真を差し上げますよ」
 文は自分のカメラを手に持って、掲げて見せた。
「別に、いらないわ」
 冷たく言い放つパチュリー。だが文はそれに動じず、ただただ笑顔でいる。
「で、何の用なの? 取材とかならお断りよ」
「いえ、今日は永遠亭からの薬を届けに来たのです」
「薬? 私は頼んでないわよ。それに、あんな妖しい薬を飲めるはずがないわ」
 パチュリーは、興味など微塵もないと言うほどに無関心だ。文も、ほんの少しだけ折れる。
「今回はサービスだそうで、他の方にも既に配っていますよ」
「ふぅん。誰に配ったの?」
「山の上にある神社の巫女さんや、天狗仲間に」
「ってことは、山の仲間たちだけ? ますます妖しいわね……」
 疑いの目で文を睨むパチュリー。さすが、紅魔館の頭脳と言ったところか。
「とりあえず、薬は差し上げますので飲んでみてください」
「そうね……。じゃ、こうししょ」
 そう言うと、パチュリーは読んでいた本に栞を挟む。そして、パタンとその本を閉じた。
「私についてきて頂戴。そうしたら、考えてあげるわ。それでどう?」
「……いいでしょう」
 文は、ついて行くだけなら、そんなに問題はないはず――少なくとも、今自分が引き受けている依頼より、と考えた。
「それじゃ、早速連れて行ってください」
 文がそう言うと、パチュリーは無言で立ち上がった。そして、ゆっくりと歩いていき、扉の前に立つ。
「行くわよ」
 重い扉を開く。本とは無縁な空間へと、二人は足を運んでいった。

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