危険な天狗 〜medicine of Aya〜
第四話
博麗神社を飛び立ち、文が次に向かったのは妖怪の山のようだった。彼女は山の中腹辺りの滝の近くに着陸する。
「椛ー、いるー?」
赤と黄色の、弾幕ほど落ちてくる落ち葉に見とれる暇もなく、文は声を張り上げていた。
「お呼びですか、文さま」
木の陰からひょっこりと出てきたのは、山に棲む白狼天狗の犬走椛だ。真面目に滝の近くを警備していたようである。
「椛、頼みたいことがあるけど、いい?」
「何でしょうか?」
一応、文は椛の上司みたいなものである。立場上、椛なら簡単に薬を飲んでくれるのではないかと文は予測していた。
「簡単な事よ。この薬を飲んで欲しいの」
「薬? 私は至って健康ですよ」
そう言うと、椛は文の周りを飛び跳ねる。これを見ていると、狼じゃなくて犬としか思えない。
「病気を治すための薬じゃないわ。色々向上させるとか、そんな感じよ」
「ああ、そうですか。なら喜んで」
「さすが物わかり良いわね、椛」
そう言って、文はカプセルを取り出した。そして、それを椛に手渡す。
「では……っん」
(さて、今度は何が起こるのかしら)
文は些細な変化も見逃さないように、しっかりと椛を見つめる。一方椛は、すぐに顔を赤くしていた。酒を飲んだときに少し似ている。
「あ、文さまぁ〜」
椛は顔を赤くしたまま、文に抱き付いた。
「ちょっ、椛!?」
「文さまぁ、大好きですぅ〜」
「急にどうしちゃったのよ、椛!」
「文さまを見ると、もう、頭がおかしく……文さまぁ〜」
やはり、薬の効果だと文は判断した。薬を飲む前と後とでは大きく態度が違っているので、間違いはないはず。
(今回の作用は……興奮状態を引き出す、と言う感じかしら)
とりあえず分かっていることをメモしておく。そして、もう一つのカプセルを取り出し、文の口に強制的に突っ込む。
「……はぅぅ。私、文さまになんて事を……」
記憶が消されるという都合の良いことは無いらしく、また赤面する椛。
「まあ、今回は不可抗力だからしかたないわね。次からは何があってもこういう事をしないように」
「はい、わかりました」
そう言うと、椛はそそくさとどこかへ走っていった。
(さ、私も急いでいかないとね)
残る薬はあと4個。文は次なる人のいる場所へ飛び立つ。